「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」。
毎週月曜日は東京新聞との紙面連動企画。今日は8月2日の朝刊「科学 シル・マナブ」面、『いま最強の対策手洗い・消毒。ウイルス、どう壊す?』という、コロナウイルに関する科学面の記事に注目しました。
★アルコール消毒 VS コロナウイルス
新型コロナウイルスとの闘いが長期戦となっていますが、いまだにワクチンも特効薬も開発には時間がかかりそうです。紙面ではいま最強の対策は「手洗い・アルコール消毒」、と見出しが付いていますが、最新のウイルスに対して、大昔から言われている手洗いで、本当に対抗できるのか?正直、私自身、”気休め”のレベルじゃないのかな~?という気持ちもありました。
そこで、この記事を書いた、社会部科学班の森耕一記者に、改めて、新型コロナウイルスというのはどういう性質なのか、なぜ手洗いと消毒は最強の対策なのか、聞きました。
まずは、アルコールはどうして新型コロナウイルスに効くのか?
- 森耕一記者
- 「新型コロナウイルスは、一番外側にエンベロープっていう膜があって、この膜っていうのは実は主な成分は油なんですね、脂質。アルコールや石鹸は基本的に油を溶かしてくれる性質がある。そうすると、膜の中にアルコールが浸透して油の膜を壊してしまう。シュッとやって、特に50~80%くらいの濃度のエタノールであれば、かなりすぐにウイルスはもう機能も無くなってしまう。そういう濃度のアルコールは、水の方も組織の中に取り込んで吸収してしまうっていう性質があるので、だから油も壊してしまうし、それからコロナウイルスの表面は油の膜だけじゃなくてタンパク質もあるんですが、そのタンパク質も水を摂ってしまうことで機能させなくなってしまう。だから表面全体が機能できなくなってしまう、ということが起こっているのです。」
北里大学の片山和彦教授に取材した森さんの話では、新型コロナウイルスが人間に感染、増殖していくのには、この『エンベロープという油の膜』が重要なのだそうです。新型コロナウイルスは、ウイルスの遺伝子が、この「膜」で包まれていて、その膜から『タンパク質のトゲトゲ』が出ている形をしています。

8月2日東京新聞紙面より
そのトゲトゲが人間の粘膜にくっつき、ウイルスの膜が人間の細胞の膜と融合して、細胞の中にウイルスの遺伝子が入っていく、という形で感染。そして、人間の細胞の中で、ウイルスの遺伝子を複製して、増幅していく・・・。
そこで、この油の膜を、油を溶かす性質を持つアルコールで壊し、感染させる力を奪う、というのが、アルコール消毒の仕組みです。エタノールで頑固な油汚れが落ちた経験がありませんか?まさにあの仕組み。
そして、エタノールは水とも相性が良いので、膜のトゲトゲのタンパク質から水分を吸収し、干からびさせて無力化!このように、膜もたんぱく質も壊して、コロナウイルスを退治するのです!
★手洗い VS コロナウイルス
では、もっと身近な手洗い。これこそスペイン風邪の頃から言われており、しないよりはした方がいい・・・まさに気休めなのかな?と思うこともあるのですが、どうなのか?森さんのお話です。
- 森耕一記者
- 「CMで昔あったような、油にピッと食器用洗剤を一滴いれるだけで、ピュッと油が消えちゃうっていうような、まさにああいうように油分であるウイルスの表面の幕というのは壊れてしまう。石鹸の場合は水で洗い流すということ、そのものも効果がある。さらに、石鹸の成分にはウイルスに浸透して膜を壊す効果もある、ということで、そういう意味で効果が十分期待できる、ということだと思います。ウイルスって、かなりたくさんの数のウイルスが身体に入ってきて、我々の身体がそれを追い出す免疫の機能に勝ってしまって、はじめて感染という状態になる。なので、できるだけ手に付いたウイルスを定期的に減らしていく、ということが大事。そういう意味では石鹸でしっかり手を洗ってどんなレベルであれ、ウイルスの数を減らしていくっていうことが、感染予防には効果がある」
気休めなんてとんでもない!手洗いは、なかなかの武器でした。
まずは、流水にあてるだけでもウイルスを流すことができる。
しかも、手洗いでは、洗い流せず、残ってしまったウイルスも、石鹸の中の「界面活性剤」が油の膜を壊すので、ウイルスが壊れる。つまり感染力を奪う効果が期待できるのです。
お皿の油汚れが、洗剤をたらすと消えていく、あんな感じで壊れていく・・・。
★『知る』と対策もしっかりできるのでは?と思って記事を書いています!
だいぶ、新型コロナウイルスが具体的にイメージできるようになりましたが、森さんによると、こうして科学的にウイルスを知ることは、感染防止の上でも、効果が期待できるとおっしゃっていました。
- 森耕一記者
- 「結局このコロナウイルス、もちろん最先端の遺伝子を解析して追跡するとか、色んなことをやってますし、世界中でワクチンを作れないかってやってますけど、そういう最先端の科学で退治するってことは、なかなか有効なことができてない一方で、もう100年前から感染症で言われていることですね、手を洗いましょうとか、いまのところは、昔からの知恵に頼るという部分がどうしても大きいですし、それは変わらずに大事なんだ、と思います。石鹸ってすごく単純なんですけど、ま、アルコールにしても、これはもう科学的に明確に、特にコロナウイルスの場合は、それを使えばウイルスが壊れるということは、明確に証明できているということなので、そういうことを少しでもわかってもらうと、丁寧さが少しでも増してくるのでは、と期待しているんです。」
確かに、ウイルスが洗い流され、壊されていく様子を思い浮かべると、モチベーションも上がって、手洗いもしっかりできそう!
なお、国立医薬品食品衛生研究所の調査では、最も効果的な手洗いは、『ハンドソープで10秒もみ洗いして、水で洗い流す、これを2回繰り返す』これで手についた100万個のウイルスが、数個になるそうです。ハンドソープで1分もみ洗いするよりも効果が高いんです。
新型コロナウイルスはただ恐れるだけでなく、感染防止のためには、科学的に知っていくのも大切、ということがよく分かりました。

近堂かおりが「現場にアタック」で取材リポートしました。